【福祉・介護業界】 【職種 事務長】
社会福祉法人 和光会 特別養護老人ホーム朝霧の園 【 志賀口裕輔 様】
今回は、福祉と農業を結びつけようと株式会社を設立し、現在奮闘している志賀口裕輔さんに
お話を伺いました。 志賀口さんは、社会福祉法人和光会 朝霧の園の事務長でもある。
【 志賀口 裕輔 Yusuke Shigaguchi 】
昭和52年生まれ 34才
社会福祉法人和光会 特別養護老人施設 朝霧の園 事務長
2011年4月 株式会社ホットファームを設立 代表取締役
名古屋にある福祉専門学校を卒業後、祖父が立ち上げた和光会へ就職。福祉の世界で働く中で
高齢者が地域の中で安心して安全に暮らせる環境と障害者が農業を通じて働くことができる
環境を模索しながら現在奮闘をしている。
1.あなたの仕事はどのような仕事ですか?具体的教えてください。
社会福祉法人和光会は、保育園、児童養護施設、知的障害児施設、介護老人施設と
時代の要請とともに進めてきました。ここ特別養護老人施設朝霧の園では、事務長として
年次計画の策定、修正、管理をしながら施設のマネージメントをしています。
朝霧の園では、40床の個室と50床の多床室、ショートステイ、デイサービス、訪問介護など
があり、利用者が利用しやすい環境をどのように作るかを職員と共に考えています。
また、農業を通じて障害者の雇用をと、2010年4月に、農産物の生産加工販売と農産物の
マーケティングなどを行うホットファーム株式会社を立ち上げ、2011年の6月から高丘に
ファーマーズマーケットを設立し野菜の販売をしています。
現在、社員2名、パート2人で、畑とお店を運営しています。
私自身は管理業務をしながら、時には畑仕事をしたりしています。
ホットファームは、健常者と障害者が一緒になって農業ができればいいなと思って作りました。
――農業と障害者を結び雇用創出。素晴らしいですね、農業については後ほど
お聞きしますので、まずこれまでの介護福祉の仕事に付いて伺わせて下さい。
2、現在の仕事、福祉の魅力、やりがいはどんな所ですか?
利用者の喜びが職員の喜びになり、組織全体の士気、やる気が高まり、モチベーションがあがり
もっと頑張るぞ!となった瞬間に喜びを感じます。なかなか結果がでる仕事ではないので、
職員はストレスも溜まります。その職員をいかにやる気にさせるか、それが僕の仕事です。
組織が伸びる瞬間は、チームがひとつになった瞬間です!難しく、時間がかかることなのですが
チームワークを重視して戦略を練りながら取り組んでいます。
3、この仕事をする迄のキャリア(経験や経歴)を宜しければ教えて下さい。
ここの和光会は祖父が立ち上げたので、小さい頃から福祉の世界がみじかにありました。
最初は、老人ホームでは、仕事したくないと思っていましたが、少しかじってみるかと思い
この仕事に携わるようになりました。
高校卒業後、名古屋の福祉系の専門学校に4年間通い、27歳までここ和光会で施設長補佐、
生活相談員として5年勤務しました。28歳の時、施設整備を担当する事になり、事務長という
立場で朝霧の園ユニット型個室増改築、耐震補強工事、北区三方原に、老人介護施設と保育園
の併設する「介護老人福祉施設なごみ」という施設を建てました。
(*なごみ 地域密着型介護老人福祉施設
http://www.nagomi.hybs.jp/ )
その後、現在の朝霧の園の事務長に就任し、2010年からホットファームを運営しています。
これからも地域に求められれば、地域の役に立つことをどんどんやりたいと思っています。
*子供たちとの野菜作り
――今後はどのような施設運営をお考えですか?
施設に地域の方が来やすいような地域の公共スペースとして、例としてお料理教室や
ヨガなど楽しめる娯楽機会を増やし、要介護状態になる前に「予防」の為に自由に活用
できる施設にしていきたいと思います。
4、介護の仕事に就く前と就いた後では、想いや印象に変化はありますか?
イメージしていた事と全然違いましたね。実際に運営に関わるようになって、
「人生の最後がこれでいいのか?俺は年老いても施設に入りたくない。」と感じましたね。
専門学校時代にも実習には行っていたのである程度理解しているつもりでしたが、
やはり中に入ると全然違う。
――そんな風に嫌だなと思っていたのに、続けられた要因はなんですか?
そうだね。自分の中で目標を設定し、到達点を逆算していろいろと計画を立ててこれまで
やってきた。今でもそうやって常に目標設定し逆算して立てた計画を実行しているのだけど。
建物の中で生活している利用者の方に、どれだけ刺激と楽しみを与えられるかが僕らの役割だと
思っています。福祉を通じて人を幸せにする事を考えてここまできたし、これからもそうです。
――使命感ですね。
利用者にとっては住み慣れた自宅ならば、なじみの空間で、ぐちも不満も言える環境だけど、
こういう施設に入ってしまうと言いたいことも言えないでストレスを抱えている利用者もいます。
その人が一番リラックスできる本来の家庭には近づけない。本来ならば住み慣れた自宅で気兼ね
なく暮らせるのが一番いい。
それが出来ないのなら気をつかわなくてもいい居場所を提供したいとこの施設にも個室を
増やしました。そんな風により良い環境作りを考えて行なっています。また今後は、自分の
選択でサービスを利用できるように利用される方の意識も変わっていくと思います。
5.仕事の流れやスケジュールを教えて下さい。
朝は、だいたい5時くらいに起きて、8時に畑を見に行きます。
8時半頃からここの施設で職員と打ち合わせをします。あとはその時その時で対応し、
7時半頃には帰宅をして自宅でリラックスすることが多いですね。
野菜の収穫期には、やはり人手が必要なので、農作業をすることもあります。
基本毎日仕事していて、お休みという日はほとんどありません。
6、仕事をしていて大変なことはどんなことですか?
問題解決に時間がかかることです。目標設定があっても、業務に取り掛かるのが
遅かったり、利用者の体調だったり日々環境が変わる中でタイミングの調整が難しいですね。
――例えばどんなことですか?
職員の意識のバランスを取る事とかかな。チーム一丸となって目標に向かっても、それぞれ
の解釈がバラバラでうまくいかなかったりすることもあります。
例えば、1日3回利用者さんの口腔ケアをするチームがあるのですが、スタッフの数にバラツキ
があるので、人手が足りないという理由で、できる人とできない人が出てきてしまいます。
しかし人がいないことを前提にするのではなく、「利用者の為に」を前提に置く事だと指導し、
意識の調整をしました。
7、ご自身にとって今まで大きな仕事や印象に残っている仕事はどんな仕事ですか?
大きな仕事というとまだまだ、発展途上で、階段を昇っているところですね。
「今の事業を大きい」と、とらえるとそこが限界になってしまう気がします。
今は自分の仕事をコツコツとこなしていくことを大切にしています。
印象に残っていることは、10年前施設に務めた初日、利用者さんの爪を切ってあげた時に、
「ありがとう」と言われたことかな。利用者の方が、自分で出来なくなったことをさりげなく
サポートすることで感謝された事に、感動を得ることができました。
――自分が当たり前だと思っている事でも、出来ない方からすると感謝につながるという
事の原点を感じたということですね。
そうだね。それがこの福祉の世界の深みでもあると思います。「ありがとう」と言われる事を
求めて、見返りを求めてやっているわけではないので、「ありがとう」と言われると嬉しいですね。
また、三方原の介護老人施設「なごみ」と「なごみ保育園」を併設して建てた事も印象に残る
仕事の一つです。始めは、2階だての1階に保育園、2階に老人施設をと考えていましたが、
住宅街の中に作るのに、地に足がついた関わりができないと意味がないと考え、隣同士に施設
をつくる事を提案しました。
現在、なごみの利用者のおじいさん、おばあさんたちは、隣の保育園児との交流を楽しみにして
くれています。また、積極的に利用者の方と子供の三世代間交流によって利用者の方の表情が
明るく笑顔になったり、刺激になることで、利用者の新たな発見に繋がったりします。
――私も訪問させてもらいましたが、介護施設と保育園が併設されている施設というのは
まだまだ珍しく、とても素晴らしい施設だと感じました。
あの施設を考えついたきっかけというのはあるのでしょうか?
朝霧の園入居者9名程度を毎週金曜日に、養護施設和光寮の幼児と触れ合いを重ねてきました。
そんなある日、日頃ぼーとしているある重度の認知症の利用者が幼児に『いい子いい子』
している風景がありまいした。この瞬間感動したのです!これだ!って思ったのです!
―― その直感は大成功でしたね!!
8.日々意識していること、大切にしている事はどんなことですか?
笑顔と勇気です。何でも挑戦をして、一歩踏み出す勇気が大切だと思います。
また、3月11日以降、地域のつながりや助け合いも重要だと改めて感じました。
9、現在はどのような夢をお持ちですか?
ホットファームを軌道に乗せて福祉の世界から人を幸せにしていくことです!
障害者が健常者と一緒に農業ができる環境を作れたらいいなと、福祉と障害者と農業を
結びつけるホットファーム㈱を昨年法人として立ち上げました。
ホットファームは、農業生産・加工販売業、ファーマーズマーケットの運営、農産物の
マーケティング事業、農業のリサイクル事業を行う会社です。今年の6月からは、中区高丘の
住宅街に小さなファーマーズマーケットを開いています。
*とうもろこしは、「かんかん娘」を栽培
10、ホットファーム設立のきっかけは?
障害者は学校を卒業しても働き先がなかなかありません。障害のある方にヘルパー3級を
取得して介護の業界で働けるように道を作っていますが、実際に介護の業務を行うのは難しい
現状があります。お年寄りと接したり話をする事は出来ても、業務についての申し送り等、
コミュニケーションがうまくできない事が多く、厳しいものがあります。
しかし、農業では可能性があるのではないかと思いました。幸いここ西区に、耕作放棄地、
遊休地がありましたで、この土地を利用して農業を軌道に載せて、障害者の雇用を生みたいと
設立に至りました。
――なるほど。素敵ですね。障害の程度にも寄りますが、平成20年度の障害者の
全国平均月給は1万円程度。障害者年金と合わせても一人で生活することは出来ない
障害者が多いと、私もニュースで見たことがあります。
まだ会社も設立したばかりでこれから軌道にのせていくところですが、今後は農業の高齢化も
これまで以上に進み、荒れていく農地が増えていくと思います。そこでそういった農地を受託
して管理し、農業の生産性を高めていくのがひとつの目標でもあります。またリサイクル事業
として、数ある施設の給食の食品残渣を畑に活かして堆肥としてリサイクルしていきたいと考えています。
5年後の目標は、ホットファームを軌道に乗せて、NPO法人和光園を立ち上げ、
現在の和光会とホットファームの間で月2万食の提供ができる組織にしたいと考えています。
そしてNPO法人を設立することで農業生産の業務を一部引渡し、障害者の雇用、障害者の
住むところの提供を社福、企業、NPOが一体となれるビジネスモデルを考えます。
また保育施設では、食育を通じて子供たちに一緒に種から収穫まで育てる喜びと頂く感謝
の気持ちを感じてもらえるようにしていきたいと考えています。
――畑では、どんなものを作っていますか?
トマトやキャベツ、とうもろこしなどを作っています。
トマトは溶液栽培で、肥料を調整しながら栽培しています。
特に、トマトは甘みがあり、ジュースにして売り出し高評価を頂きました。
*溶液栽培で出来たみずみずしいトマト
――もともと農業の知識はあったのですか?
まったくの素人ですよ。
始める前に、浜松市の就農支援を使って、10日間北区のトマト農家さんに修行に行きました。
それだけです。もちろんその農家さんは現在も畑を支援してくれていますし、溶液栽培専門家
の静岡大学の教授にアドバイスを頂いたりしながらなんとかやっています。
――初年度から高評価を頂けるなんて凄いですね!!
いやいや、まだです。それでもトマトは「美味しい」とリピーター,がつきました。
形の悪いトマトは、トマトジュースとして600本×2作作りましたが、これも大好評でした。
作った野菜は、高丘の自社のファーマーズマーケットなどで販売しています。
――どのくらいの規模で取り組んでいるのですか?
現在は、1haの畑と、うち300坪のハウス栽培をしています。
社員2名と、パート2名で畑とお店の管理をしています。
今年の6月からは、農家さんを集めて、地域の方にも食べてもらいたいと毎週木曜日に
朝霧の園で「トラック市」を行なっています。(農家さんも現在募集しています。)
毎週火曜日には、三方原の老人介護施設「なごみ」でもトラック市を行なっており、
トラック市は地域との交流のなればと考えています。トラック市を通じて、普段なかなか
施設と関わりのない方との交流も少しずつ作る事が出来ています。
*施設の前でのトラック市でにぎわう様子
11、これから就職や転職を迎える若者への期待やアドバイスをお聞かせください。
こだわりよりも柔軟な挑戦が大切!
ある想いにこだわるよりも、頭をやわらかくして、今できる事を挑戦することが大切。
思い込みするよりも、まずは一歩踏み出す勇気。自分を信じてなんとかなるだろうと
思うことが大事です。そして、いろんな事に挑戦してほしいです。
また目的を持って、逆算思考で色々と計画を立てて実行していくことが大事だと思います。
もし、目標ややりたい事があるなら、その道で、100個のアイディアを考えれば感触がわく!
そのうち99%は失敗するから、100個考えてその中に一つ成功があると思う。
そういうものだと思う。5個でも、50個でもダメ!
一つのものからどれだけ連想できるかを、実行してみることが目標達成の秘訣だと思います!
--朝霧の園には、どんな人に来てもらいたいですか?
介護業界は、これから超高齢化社会が来るので、本当に人の為になるやりがいのある仕事。
とにかく明るい人に来てもらいたいですね。
利用者の方を明るく笑顔にしてくれる人がいいです。
やりがいや、責任がある分楽しさもあると思います。
―― 貴重なお話、ありがとうございました。
――― 法人概要 ―――
【 社会福祉法人 和光会 朝霧の園 】
URL:
http://www.asagirinosono.hybs.jp/
〒431-1206
浜松市西区庄和町2476-1
電話番号:053-487-2210
<事業内容>
特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、訪問介護、居宅介護事業所、
在宅介護支援センター
【社会福祉法人 和光会】
URL:
http://www.wakoukai-net.com/
*和光保育園 *特別養護老人ホーム朝霧の園
*知的障害児施設朝霧荘 *養護施設和光寮
*介護老人福祉施設なごみ *なごみ保育園
【編集後記】
志賀口さんは、スタッフ一人一人、利用者一人一人の事を考えて、明確なビジョンと
目標と計画を持っていて、実行力のある素晴らしリーダーだなと感じました。
34歳という年齢には驚かされるほど、しっかりした考えを持ち、落ち着いた風格、
ニコニコ笑顔のやさしい人柄で頼りになる上司という印象!こうした若い世代が介護や
福祉の世界をどんどんよりよいものへと進化させていく。そういった期待を感じました。
これからの和光会の展開に、益々注目です!!障害者の雇用がたくさん生まれるように、
ぜひホットファームを軌道に乗せて欲しい!また高齢者が安心して、楽しい人生を最後まで
生き抜ける環境作りを、若い世代の私たち自身もしっかり考えて、自分たちの未来の為にも
環境整備をしていかなければいけないなと感じました。
今後も私が代表をしている「ひまわり2525プロジェクト」との種まき交流事業を
ぜひ続けていきたいですのでよろしくお願いします! (取材・編集・撮影 塩崎明子)
高齢者の方が年々増えてきて、これから超高齢化社会を迎えます。
志賀口さんは高齢者にどう楽しい人生を送ってもらうことができるかを一人一人考えて
いました。また、地域との交流を通してもっと人と人とが広く繋がればいいなと思いました。
普段高齢者と接する機会があまりないので、高齢者といろんな世代の人が何かを一緒にやる
ことでお互いが楽しい時間を共有できるなと感じました。志賀口さんのおっしゃるように、
一歩踏み出す勇気さえあれば見える世界も変わっていくと思います。
(インターン 井村江里 )