NO.4 『作業療法士としての2足のわらじ』

インタビュー Vol.4    

『患者さんの心に寄り添える未来の作業療法士を育てる講師と
精神分野のリハビリテーションをする作業療法士としての2足のわらじ 』



今回は、静岡医療科学専門学校の非常勤講師を勤めながら、
週2日精神科クリニック「ぴあクリニック」にて作業療法士として勤務。
更には、聖隷クリストファー大学大学院2年生として
精神科リハビリテーションの研究を行っている、菅沼映里さんにお話を伺う事が出来ました!
2日間にわたり、菅沼さんの職場見学と授業体験、インタビューをさせて頂きました。


NO.4 『作業療法士としての2足のわらじ』

【菅沼 映里 Eri Suganuma 】
生年月日1978年1月5日 33歳
神奈川県川崎市出身 高校卒業後、浜松へ。
静岡医療科学専門学校 作業療法士学科卒業
静岡県こころの医療センター(7年)、福智クリニック(3年)(愛知県)にて
合わせて10年現場での経験を積んだ後、現在に至る。
休日や仕事が終わった後は、雑誌の執筆作業や、
論文の準備と大忙しな毎日。得意料理はスパイスカレー



【専門学校の講師の仕事について】

1,まず始めに、この仕事は一言でいうとどのような仕事ですか?
  併せて、具体的な仕事内容を教えて下さい。


 患者さんの心に寄り添える未来の作業療法士を育てる講師の仕事です。
現在は1~3年の授業の担当をしています。

【作業療法士とは・・・リハビリテーションのスペシャリスト】

 作業療法士とは、「作業」を通じてあらゆる人の健康や幸福を促すことに関わる職業。
ここでいう「作業」とは、食事・更衣・身辺の移動などの「日常生活」、
学校での授業・家事・会社で働くことなどの「仕事」、趣味・娯楽・スポーツなどの
「遊び・余暇活動」といった生活すべてに関わる諸活動をさします。

 作業療法士は、例えば、気分がめいってやる気がでない人の意欲をひきだす、
動かなくなった手の動きを良くするために、あるいは脳の動きを活発にするために
その人が好きだったり、得意な活動を用います。
手工芸やゲーム、料理などありとあらゆる活動を治療として行います。
その人にとって必要な「作業」を使用して、「こころ」と「からだ」の回復とともに、
その人らしい生活の実現を目指します。


講師としての仕事は
・精神分野の病気の特徴、治療、リハビリテーションに関する授業
・コミュニケーションの授業
・個別相談、指導
・実習地訪問
・レポート添削、テスト作成
・学校PR事業
・行事活動  などです。

NO.4 『作業療法士としての2足のわらじ』


2,職業選択で考えたこと、また現在の仕事を選んだ理由やきっかけを教えて下さい。


 高校の時、絵を描くのが好きで、美術系の高校へ通ってました。進路を考えた時、
美大に行くか悩んで、この道で食べていくのは大変だと感じましたね。
そこで3つの理由から進路を決めました。1,ものづくりをしたい。 
2,障害のある子が近くに住んでいた為その母親から作業療法士を勧められた。 
3,私自身がアトピーやぜんそくの治療を通じて、親身に関わってくれる医療従事者に
憧れていた。という理由から浜松の専門学校を卒業し、この道で早10年というところです。



3,この仕事の魅力、やりがいはどんな所ですか? 

*臨床実習から帰ってきた学生や臨床で働くようになった学生から、
「授業や個別指導の内容が生かされました。」
「先生の言っていた事がよくわかりました」と評価されると、
「力になれてよかったなあ。」とやりがいを感じますね。
 また授業、相談、指導、支援を通じて、自分自身の勉強になるし、
成長できることも魅力です。最新の情報に触れることが出来ることも楽しいし、
学生からエネルギーをもらう事も多い仕事ですね。


NO.4 『作業療法士としての2足のわらじ』
*昼休み、長期の臨床実習を終えて帰ってきた学生と談笑する


*臨床(りんしょう、英語:clinic)とは、医療分野において、
(心理学・教育学・社会学等の学問領域においても)医療・教育・カウンセリング
その他の介入を行う「現場」、あるいは「現場を重視する立場」を指す。



4,仕事の流れやスケジュールを教えて下さい。

8:30~ ミーティング 学生対応・レポート添削・授業準備
10:30~ 授業
12:10~ 昼休み、学生対応
13:30~ 授業準備等
16:40~ 学生対応
18:00~ 帰社



5,この仕事をしていて大変なことはどんなことですか?


 国家試験に学生が努力しても受からなかった時や学生への指導の成果が
すぐにでない時は大変だなあと思います。
 求められている知識は医者とそんなに変わらないと想う。
分厚い本を勉強するので、「こんなに勉強が大変だと思っていなかった」と
この道を諦めて学校を辞めてしまう学生がいる。
進路変更の際にもう少し大きな目でその人の人生の進路選択の支援をして
あげたいと想うけど、まだまだ十分なフォローが出来ていないと感じています。



NO.4 『作業療法士としての2足のわらじ』
――― 難しそうな本ばかりですね。よほど強い想いや心がないと国家試験に
  受かるというのは大変な事だと感じます。先生の教科書のインデックスを見ても、
  しっかり勉強しているなあと本から熱意が伝わってくるように感じます。(塩崎)

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――― 学生さんへの指導で気を付けていることはありますか?



 今の学生はすごく自信のない学生が多くて・・・失敗したがらない傾向にある
印象をもっています。その為、社会に出る前に上手に失敗させるサポートをしています。
なぜなら、社会に出てから失敗して怒られたりすると・「ポキッ」って
いとも簡単に心が折れちゃう子が多いです。

 そうならない為にも、学生時代に敢えて失敗を経験させるようにしています。
また、もちろん知識があることも大切だけど、知識よりもコミュニケーションが
出来るように指導を心がけています。指導の結果はすぐにでるわけではないので、
時間をかけてじわじわ~と。反応は後から出てきますね。それがまた面白いですね。


 他には、客観的に考えるよう指導をしています。
臨床では、1日の患者さんとの会話の内容を客観的に記録する事が求められます。
事実に対して主観的解釈をいれずに報告をまとめる必要があります。
患者さんのカルテは、誰が読んでも理解できる書き方をする必要がありますから。

―― 客観的解釈ですか。意外と難しいですよね。

 慣れるまでは大変ですね。例えば、うつ病かどうかの診断をする為に、
ある人を観察するとします。客観的に観察というと、常にうつむき加減で、
顔の表情も暗く血の気がない、声をかけても返事をするまでに時間がかかり、
声も小さく力がない・・・・・。
というように誰が見ても同じように解釈できるように観察記録を残します。

―― 難しいですね・・・。


NO.4 『作業療法士としての2足のわらじ』
*1年生の授業の風景



 次に作業療法士として全国でも最先端の治療ACTを行う
ぴあクリニックさんでの仕事ぶりを見学し、インタビューしました。

【ACTを行うぴあクリニックでの仕事について】

6,始めに、作業療法士としてどのような仕事をされているのですか?
 具体的な仕事内容を教えて下さい。



 地域に暮らす重度精神障害者の生活支援、リハビリテーションを行う訪問をしています。
具体的には、ご本人の希望に応じて、ダイエット、趣味開発(カラオケ)、やる気開発、
料理、ストレッチ、心理教育、家族相談、就労支援、症状安定のためのコツを考えるなど、
何でもします。


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ここ浜松市北区根洗にある【ぴあクリニック】では、
精神分野の中で全国的にも注目されている訪問型支援である「ACT」などを行っています。
ACTとは、重い精神障害のある人が、住み慣れた場所で安心して暮らしていけるように、
さまざまな職種の専門家から構成されるチームが支援を提供するプログラムです。

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今までの訪問型支援は、利用者さんに対して限られた職種で訪問していた傾向にあります。
それを1人の利用者さんに対して、医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士などで
構成されるチームで関わり複数の専門家が入れ替わりで有機的に治療をしていき、
病院に入院しなくてもすむようにしています。日本は世界の中でも精神科病床数が多いです。
病院ではなく、希望を持って地域で生きていける支援をしています。

―― 支援内容は多岐に渡るんですね。

7,この仕事の魅力、やりがいはどんな所ですか?

病気の影響で、自分らしい生活がしづらい(例えば、人付き合いや身の回りのこと、
仕事、役割、趣味等)人たちが、自分らしい人生を歩む時間を取り戻す過程を
共に歩むことができることですね。笑いあり、涙あり、様々なドラマがあります。


8,仕事の流れやスケジュールを教えて下さい。 

NO.4 『作業療法士としての2足のわらじ』
*チームでの打ち合わせ風景

8:00~ カンファレンス(会議) (前日の訪問報告と予定・計画・方針共有)
9:30~ 患者さんを訪問、平均すると午前2件、午後3件の計5件位です。
    夕方クリニックに戻り報告の為の記録をまとめます。
だいたい17:30頃帰宅します。

―― どのような患者さんを担当されているんですか?

 例えば、何らかの事情でお部屋に閉じこもって直接会えない方に、心を開いてもらえるように
話しかけたり、ご家族のお話を伺ったりします。ある時は、同じ姿勢を取り続けて身体の痛みが
あるという方のリハビリや話し相手になったり、頭が混乱してしまっている方の話し相手になったり、
病院に入院せずに1年生活できたことをお祝いするために、一緒に食事に行ったり、
カラオケや仲間作りの為のボランティア活動などをしたりもしますよ。
  

(*プライバシーを保護するため、事実に若干変更を加えています。)



―― 具体的にお話を聞くと、なかなか大変そうですね。

9,この仕事をしていて大変なことはどんなことですか?


 その人の良さ、長所を最大限に生かせる様に努力しているのですが、
うまく出来ない所ばかりが目に付いたり、焦ったり、もっとよいやり方が
よかったのでは?と深く反省する時、この仕事の難しさを感じます。時に悩んだりもします。

 また、利用者さんが色々と体験出来る場や、社会参加が出来る場を
もっと増やしていきたいと思ってます。様々な機会を・・・と思っても、
なかなか機会を提供するのが大変ですね。

例えば、近隣の地域で
「ボランティアでギターを教えてくれる人」を探したいと思っても、
なかなか探すのって難しいですよね。ボランティアの人財バンクみたいなのがあって、
それぞれが出来る事が登録してあって、気軽に検索出来て探せるサービスなどがあったら、
もっといろんな機会を利用者さんに提供できるのに。・・・なんて思います。


10,仕事をしていて、「嬉しい」を感じるのはどのような瞬間ですか?

 長く苦しい想いをしていた方が、支援を通じ自分らしさを発見し、
キラキラしているなあと感じる時が一番うれしいです。
相手の数だけ、価値観や物語が異なり、とても勉強になり楽しいです!

 例えば、何年も自宅にひきこもり、自宅の自室から出れない方もいました。
そういう方が私たちと接する事で、10年ぶりに外出が出来たり・・・。
また、病気の人同士の交流の場を提供しているのですが、お
互いの気持ちがよくわかる為、友達が出来て元気になっていく事も多くあります。
そういう嬉しい瞬間に立ち上げるのが嬉しいです!

―― なるほど。いろんな心の悩みを抱えて苦しんでいる方が世の中にはたくさんいますよね。
   誰か心に寄り添ってくれるだけで、心の氷が溶けるような事ってたくさんあります。
   作業療法士の仕事、とても大きな役割のある仕事ですね。(塩崎)

11,日々意識していること、大切にしている事はどんなことですか?

 自分だけ大変と思いそうになる時には、皆大変だと思い、「ありがとう」「感謝します」
「私はついている」と思うようにして、気持ちをプラスに考えるようにしています。
また、疲れた時は気分転換を大切にしています。


12,現在はどのような夢をお持ちですか?


 精神分野には偏見がまだあると思います。なるべく精神分野の治療が施設収容型ではなく、
地域でその人らしく生活できる支援になっていく為に、学生、専門職、地域の方々を
啓蒙していきたいですね。精神分野の障がい者がイキイキ活躍できる場所を開拓すること。
作業療法士の後輩達が希望を持って働ける支援をしたいですね。
あきらめないでやっていけば、きっと結果につながるということを身体を持って示していきたいです。
作業療法士は地域に必要な存在だと思っています。
さらには、今やっている臨床活動の成果を調べて発信していくこと。


13,これから就職や転職を迎える若者への期待やアドバイスをお聞かせください。 

 人付き合いを広げることでしょうか。自分の事を理解してくれる人も、
反対してくれる人も大事にすることが人生には大切。幅広い人脈を創ることを勧めます。
また、やりたい事が見つかったら、どうすれば出来るのか?
何が出来るのか?を考える事が大事ですよ!!

――― ありがとうございました。色々と刺激をもらったインタビューになりました。

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<作業療法士の活躍する世界> (専門学校HP参照)

◎医療・・・・退院の日を目指して・・・
 様々な病気や怪我を持った患者さんとともに、病院に入院している時から
家庭復帰や社会復帰を想定した治療を行い、患者さんが退院した時に、
病前と変わらない生活が送れるように各種作業訓練を行っています。
 ●総合病院 ●地方基幹病院 ●リハビリテーション科を有する一般病院等

◎こころのケア
 こころの健康を身体と同様に重視する作業療法は、現代社会が生み出した様々なストレスを
かかえる人達に対し、精神保健福祉士と協力して各人のこころのケアを行います。
 ●精神科病院 ●精神科関係施設等

◎福祉・・・誰もが住みよい環境を
 「バリアフリー」が注目され始めた今、多くの障害者が健康な人々と同じように
社会生活が営まれるように環境作りや福祉機器の開発に励んでいます。
 ●保健所 ●リハビリテーションセンター ●福祉関連企業等

◎地域・・・高齢化社会を支える原動力人、
 入院できない高齢者や、家族と暮らせない高齢者や痴呆老人、そんな高齢化社会が
生み出した現実を打破し、明るい高齢化社会を目指して、
施設や在宅でも充実した医療サービスが受けられるように頑張っています。
 ●訪問リハビリテーションセンター ●老人保健施設 ●デイケアセンター等
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【静岡医療科学専門学校】 http://www.shiz-med-sci.ac.jp/
〒434-0041 浜松市浜北区平口2000 
TEL 053-585-1551 FAX 053-585-2533
設置学科:看護学科、理学療法学科、作業療法学科、臨床工学科、助産学科

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【ぴあクリニック】 http://peerclinic.com/ 
〒433-8108  浜松市北区根洗町537-2
TEL:053(415)3355  FAX:053(414)3356 
peerclinic@kind.ocn.ne.jp

●精神科  理念「どんなに重度の精神障害を抱える人であろうとその人が
地域でのびのび自由に生きていくことを可能な限り支援します」

重い精神障害をかかえて、ひきこもりがち、仕事に就きたいけれど就けない、
家族以外の人との会話がほとんどないなど、社会生活上の困難を抱えている方に対して、
医師が往診するほか、PSW(精神保健福祉士)、看護師と共に、
OT(作業療法士)が訪問を行うことがあります。

他に当事者活動として「虹の家」にてミーティング、料理、スポーツ、
当事者研究などの活動を行っています。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【編集後記】

 僕が高校生の時に、菅沼先生のような熱意のある先生に指導されていたら、
もっと意欲的に勉強していて、今の僕の人生はもっと変わっていたかもしれない。
生徒がどんどん質問に来ていて、生徒に人気のある生徒に近い先生だと思った。
また質問に対する回答も要点を捉えていて、わかりやすい指導だと感じた。
とても魅力的な先生です!生徒が意欲的に取り組んでいるのも、
菅沼さんのような素晴らしい先輩が身近にいて、こうなりたいという憧れを
感じるからこそなのではと思った。(23歳 古賀)


 作業療法士という仕事自体、名前しか聞いたことがない仕事でしたが、
今回のインタビューを機に、超高齢化社会を迎えるこれからの世に、
もっと普及すべき仕事だと、その仕事の重要性を強く感じました。
また同じ作業療法士という資格の仕事でも働く場所が変われば、
患者さんとの関わり方や業務内容も変わってくる所がまた面白い仕事です。

 そばで見学していると、学生さんが常に菅沼さんの指導を求め、
ひっきりなしに相談に来ておりとても忙しく、きびきびと次から次へ客観的に、
かつ的確にわかりやすい指導されており先生の人気が伺えました。
まさにかっこいい女性というイメージです。作業療法士を目指す学生さん達も、
明確な目標を持っている為か、とても意欲的で輝いていたのが印象的でした。

 菅沼さんの大切にしている事でもある「感謝」というキーワード。
当たり前の事を当たり前と思わず、小さな事にも感謝することが大事。
先日テレビで三輪明宏さんが「幸せとは青い鳥のようなもので・・・
幸せは掴むと逃げていっちゃう。だから、幸せを感じ続ける為の方法は一つしかない。
それは「感謝」しかない。」と!「感謝」ってどんな時も大事ですね。
                                 (編集 塩崎明子)



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