Vol.13 『国際協力参加を呼びかける情熱JICAウーマン』

 業界 国際協力   職種  浜松市国際協力推進員  
 企業名 独立行政法人 国際協力機構  上田 記子さん    

【-浜松から世界へ-
  国際協力参加を呼び掛ける情熱ウーマン 「JICA国際協力推進員」】



 開発途上国で5歳になる前に命を落とす子どもの数は、1年間で1044万人=「3秒に1人」
また、この地球上では12億人、つまり5人に1人が1日1ドル未満の所得で生活をしていて、
貧困と闘っている。開発途上国でも貧富の格差は広がるばかりだ。

いまこの瞬間にも、東アフリカで大干ばつがおきており、1200万人が深刻な食糧危機に
見舞われ、日々多くの命が失われている。まずは知ることから国際協力は始まる。


 今回は、この国際協力の舞台へ、年間約3000人もの日本人を青年海外協力隊として送り出している(独)国際協力機構JICAで、静岡県西部地域を担当している浜松デスクの上田記子さんにお話をお伺いしました。


Vol.13 『国際協力参加を呼びかける情熱JICAウーマン』

【上田 記子 Noriko Ueda】
神奈川県出身 1980年 6月7日生まれ
日本大学芸術学部放送学科卒業後、アメリカへ留学。
帰国後、企業に就職し、勤務の傍ら日本語教師資格を取得。
2007年6月よりJICA青年海外協力隊(職種:日本語教師)として南米チリにて2年間活動。
帰国後2009年10月よりJICA国際協力推進員として浜松デスク(浜松国際交流協会内)に着任。 
趣味は、料理、友人たちとホームパーティーをすること、自転車での浜松街中散策。
フラメンコやボランティアでのイベント司会など、プライベートにも忙しい笑顔の素敵なチャーミングな女性。



1.まず始めに、上田さんのお仕事は一言でいうと、どのような仕事ですか?
 また、具体的には、どのようなお仕事ですか?



 独立行政法人国際協力機構JICAの市民の皆さんに一番身近な窓口として主に静岡県西部を
担当するJICA浜松デスクで業務を行っています。
JICAボランティア事業(青年海外協力隊やシニア海外ボランティア)などの応募相談や、自治体や教育機関と連携を図りながら、国際協力に関するイベントやセミナーの企画から実施までを担当。

また月に1度浜松国際交流協会機関紙HICEニュースでの担当コーナー記事の連載やマスコミを通してのJICA広報など。イベントの司会や自身が講師となっての国際協力講座なども学校や企業など、幅広い場所で実施しています。

Vol.13 『国際協力参加を呼びかける情熱JICAウーマン』 Vol.13 『国際協力参加を呼びかける情熱JICAウーマン』
 *森町の飯田小学校での国際協力の授業の様子(H23.9.13)


 この地域は、特にシニア(40歳~69歳)世代の方々の国際協力参加の意欲が活発で、
毎回応募説明会には、多くの方にお越しいただいています。ものづくりがさかんな地域だからだと思いますが、ご自身のものづくりの技術や経験を途上国でも役立てたいという想いを持った大手
企業のOBさん達がとても多く、この地域からのボランティアが世界中で活躍しています。


―― なるほど。青年海外協力隊とシニア海外ボランティアには、たくさんの職種があり、
 様々な方に活躍の場が広がっているんですね。青年海外協力隊について教えて下さい。



 JICAボランティア事業は日本政府のODA予算により、実施される事業です。
発展途上国からの要請(ニーズ)に基づき、技術・知識・経験を、「発展途上国の人々のために
生かしたい」と望む方を募集し、選考、訓練を経て派遣します。
 その主な目的は、
 (1)開発途上国の経済・社会の発展、復興への寄与
 (2)友好親善・相互理解の深化
 (3)ボランティア経験の社会還元です。

なかでも、青年海外協力隊は40年以上という長い歴史を持ち、これまでにのべ3万9000人を
超える方々が参加しています。


 応募できるのは応募時に20~39歳(青年)、40歳~69歳(シニア)の方で、日本国籍を持つ方です。募集期間は年2回(春・秋)、活動分野は農林水産、保健衛生、教育文化、スポーツ、計画・行政など多岐にわたり120種類の業務があります。自分の持っている知識、技術、経験などを
生かせるのがJICAボランティアの特徴です。派遣期間は原則2年間ですが、1ヶ月から参加できる
短期ボランティア制度もあります。
現在82カ国、3000人の日本人が開発途上国で活躍しています。


――上田さんは、静岡文化芸術大学でも講師をされていたとのことですが、
   どのような事を学生に教えていらっしゃるんですか?



 文化政策学部 国際関係学科の「企業と言語教育」という授業を担当いたしました。 
日本語教師の資格取得を目指す学生たちに対して、自身の海外での日本語教育経験をもとに、
教授法や学生心理学、教壇に立つ際の心構えなどを伝えました。
 学生の皆さんの目はキラキラしていて、毎回刺激を貰い、様々なことを教わっていたのはこちらの方でした。とても良い経験となり、私自身初心に振り返る素晴らしい機会を頂けたと思います。


--上田さんにとって浜松はどんなところですか?

 浜松は、とにかく人が温かくて優しくて、とても住みやすい所だと感じますね。
街も、山も、海も、湖も、美味しいものもたくさんあって、私は大好きです。
この場所に着任できたご縁に感謝しています。
また、物づくりの技術や、音楽をはじめとする芸術の盛んさも魅力ですし、
またイベントなども、フットワークの軽い方たちのネットワークが整っていて、いいですね!
 大好きな浜松に、このままずっと住めるものなら住みたいと、日々心から思ってます。
  


2.この仕事の魅力、やりがいはどんな所ですか?
    

 1日と同じことの繰り返しがないことです。
日々色々な仕事を行い、飽きることがないです。それもデスクワーク、イベント司会、縁の下でを
運営を支えるスタッフ、名古屋にあるJICA中部での会議出席などなど、行う仕事も様々で、
大変さや苦労もあるものの、やっぱり毎日楽しいです。
多方面の方々と多く出会うことができることも同じく魅力に感じています。今まで自分が知らなかったことや、見たこともない世界に出逢い、日々視野が広がっていく気がします。
人と出会うことで、コミュニケーションやファシリテーション能力が自然と身につき、
自分のスキルアップにも繋がるのも嬉しいですね。


※ファシリテーション・・・会議、ミーティング等の場で、発言や参加を促したり、
  話の流れを整理したりし相互理解をサポートすることです。


3.仕事の流れやスケジュールを教えて下さい。
 

 出張も多いですが、通常のデスク業務の際は、だいたい9時半から7時くらいまでです。
なるべく残業しないように頑張って仕事をしています!プライベートの時間も、仕事と同じくらい
大切にしています。


4,この仕事をしていて大変なことはどんなことですか?
   

 1人で多くの仕事をこなさなければならないところが大変です。どのお仕事も同様かもしれませんが、「ここまで」というリミットがないところが、「本当にこれでいいの?もっと頑張れるんじゃないかな?」ともどかしさを感じ、時に不安にもなります。
 
 でもだからこそ、きっと毎日楽しいのかもしれませんね。気を付けていることは、リミットがないからといって、あまりにも仕事にばかり没頭してしまわないことです。プライベートとのバランスが取れなくなり、結果的に自分で自分の首を絞めることに・・・。
仕事と自分の時間のバランスを上手くとれるように工夫をしています。



5.ご自身にとって今までで一番大きな仕事や印象に残っている仕事はどんな仕事ですか 



「はままつグローバルフェア」を行ったことです。
浜松国際交流協会、はままつ国際理解教育ネットとJICAの3者共催で行ったのですが、
全てが新規の大型イベント!クリエート浜松をほぼ全館貸し切って、ステージ企画
「地球のステージ」や世界中の音楽を紹介する「ワールドステージ」、またフェアトレードショップ、
世界の料理コーナーやものづくり教室などなど・・・たくさんの企画が盛りだくさん!当日スタッフだけでも約100名、来場者は約1900名。

 だいたい1年前より企画を行い準備に取り組み、当日はステージ指揮を担当、時には司会として民族衣装を着て登場したりと、とにかく目のまわる1日でした。全てが終わった時は、充実感や嬉しさと共に、身体全身の力が抜けたのを覚えています。打ち上げが始まったとたんにどっと気持ちが安心し、乾杯のグラスを片手に船をこいで居眠りをしてしまい、皆から笑われたのを覚えています(笑)
   

 ―― そんな面白そうなイベントがあったんですね。参加したかった~。


6.現在に影響を及ぼしている、人生で転機はどのような出来事でしたか?


 やっぱり青年海外協力隊の試験に合格したことですね。 合格するのに3年かかりました。
健康診断でアレルギー体質という理由で不合格になってしまいました。 生まれつきの体質と言われてしまったので、その時は本当に辛かったです。でもどうしても、あきらめられず、治療しながらチャレンジし続けました。
 
 なぜだか「青年海外協力隊に」参加しないと、「自分」は始まらないと漠然と感じていました。
3年かかってやっと合格した時は、すごく嬉しく、まるで自分の背中にビュンビュン追い風が吹くのを感じました!(笑)


   
--家族は、どう思っていましたか?

  両親は、最初は反対でした。特に父親は心配性で猛反対。
最初は不合格の知らせを知り、ホッと喜んでいた父。
しかし、落ちてもあきらめずにチャレンジする私の姿を見て、最終的には応援してくれました。
合格した時に両親が喜んでくれたことが一番嬉しかったです。「必ず笑顔で、生きて帰ってくること」と、寂しいながらも、笑顔で送り出してくれました。
    

7,JICAの仕事に就く前と、就いた後では、想いや印象に変化はありますか? 
 

 JICAデスクは、浜松駅すぐの浜松国際交流協会(HICE)内にあります。そのため日々多くの
外国人の方ともお会いでき、またHICEさんの仕事というものも身近に知ることができます。

 私たちJICAは、国内の皆さんに海外に目を向けてもらうことを目的としていますが、
HICEさんはどちらかというと国内にいる外国人に目を向けてもらうことが仕事。
改めて「多文化共生」の大切さを日々感じています。ここで仕事をする前は考えたこともなかった
ようなテーマを、HICEさんから日々学んでいること、それが仕事を通して自分に起こった一番の
変化かもしれません。

※多文化共生・・・国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、
  対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくことです。


―― 国際協力に関心を持ち始めたのはいつ頃からですか?


 小学校高学年の頃、電車内の青年海外協力隊の広告を見て、「これ何?」と母に尋ねたことを
覚えています。「この人たちは、世界中に、困っている人たちのお手伝いに行くのよ。」と母は説明。
その時「大きくなったら、私にもできることなのかな。」と感じたのを覚えています。
それがきっかけと言えばきっかけですね。


―― 青年海外協力隊として(チリ)、どのような活動をされていましたか?


 首都サンティアゴから東に約120キロ程、世界遺産に指定されているバルパライソという港町で下は、小・中学校や大学、また市民館など色々な場所で日本語を教えていました。
出会った学生は6歳から、上は70代の方まで。また、場所によって求められている講義の活動
内容も異なりました。例えば大学でキリっとスーツで文法などを教えていたかと思えば、次の日にはジャージ姿で小学校の子どもたちにソーラン節や折り紙などを教えるなど奮闘の日々。
その中で活動に悩むこともありました。

 そんな時思いがけない言葉が。「うちの子は、普段は朝なかなか起きられないのに、ノリコの授業がある日だけは飛び起きるのよ!」とある生徒の母親に言われ、それは本当に嬉しい言葉であり、涙が溢れました。山あり谷ありの2年間。毎日笑って、泣いて、忙しかった2年間。
かけがえのない私の宝物です。
       

Vol.13 『国際協力参加を呼びかける情熱JICAウーマン』
*授業を担当していた、小学生の子供たち



 --チリに行って思ったことはどんなことですか? 

        
 私が今まで「当たり前」と感じていたことが「当たり前」ではなかったことですね。
貧困層の子どもたちが通う小中学校でも活動をしていたのですが、そこの職員や村の人たちに、私はいつも「可哀そうな子」と呼ばれていました。
 
 日々の食事も質素で多くの経済問題を抱える彼ら、あきらかに彼らたちの方が大変だと思うのに…と、思っていました。 そしてある日「どうして私が可哀そうなの!?」と尋ねると、
「だってあなたはたった一人でここにやって来たのよ。お父さんもお母さんも、兄弟も、いとこもいない町。一人で食べる食事よりも、貧しくても家族皆で食べる食事もほうが美味しいもの」と。

 
 家族が笑顔で一緒に時間を過ごすこと。これこそが彼らの「豊かさ」の基準だったのです。
モノに溢れていることが、豪華な食事を食べられることが本当に「豊か」なのか?
「豊かさ」の基準について改めて考えさせられました。

Vol.13 『国際協力参加を呼びかける情熱JICAウーマン』
*公民館で行っていた日本語クラスの学生たち



9.日々意識していること、大切にしている事はどんなことですか?



 仕事に関しては、常にJICA浜松デスクとしての自覚をもって行動するように心がけています。
休日などで、たまにスーパーなどで「上田さん!」と声を掛けられると、嬉しさと共に
「お化粧しておけばよかった~」などと慌てたりもします(笑) 
 
他には、「優しさ」は常に持っていたいと思います。仕事に追われると、気持ちにも余裕がなりますので、そのためプライベートも大切にするようにしています。
 例えば、趣味のフラメンコをしたり、料理をしたり家族に連絡をしたり…、
仕事とプライベートのバランスを上手に取れる女性になりたいです。


Vol.13 『国際協力参加を呼びかける情熱JICAウーマン』
*趣味のフラメンコ
   

 --尊敬している人はいますか?
 

たくさんいるけれど、やっぱり両親。人情いっぱいで頭の回転が速く鋭い父に、穏やかでおっとりした母。家族のコミュニケーションが密なので、怒ったり、泣いたり、笑ったり、色々と忙しい部分も
ありますが、最終的には子どもたちの背中を押してくれる2人なので、尊敬しています。
あの2人は学生時代からずーっと一緒にいるのに、今でも2人仲良が良いということはすごいと
思います!私もあの2人みたいな夫婦にいつかなれたらなあ…と、恋愛のお手本です(笑)


10.現在はどのような夢をお持ちですか?

 いっぱいありすぎて…。
やはり、いつの日か母親になりたいですね。自分みたいな子が産まれてきたら、心配がつきなさそうで、ちょっと大変ではありますが…。それから、またいつの日か、JICAシニア海外ボランティア
として日本語を海外で教えたいです。

今の仕事ももちろん好きですが、日本語教師として教壇に立っていた時の興奮も忘れられません。それで、おばあちゃんになった時は、カフェなども経営して、孫たちがデートで使ってくれたら
いいなあ…とか、色々考えています。基本、妄想が大好きなので止まりません!


―― これから就職や転職を迎える若者への期待やアドバイスをお聞かせください。 
 

 周囲の人たちからのコメントや意見を聞くことはもちろん大切ですが、それだけで自分の想いを
曲げたり、あきらめたりせずに、自分の希望に突き進んでいってほしいです。

迷ったり、つまづいたり、挫折したり…、若いうちにたくさん経験をして、いろんな事を吸収してほしいと思います。私も、そんな偉そうなことは言えませんが、最終決断はやっぱり誰の意見でもなく、
自分で決めることだと思うので悔いのない時間を過ごして下さいね。 私もまだまだ人生模索中です、一緒にがんばりましょう!


―― ありがとうございました。国際協力の世界を目指す人は多いと思いますが、
この道を希望する方はぜひ、JICAデスクの上田さんを訪ねて下さい!彼女のあたたかい人柄にすっかり虜になっちゃうかも!


Vol.13 『国際協力参加を呼びかける情熱JICAウーマン』

【国際協力機構JICA】   http://www.jica.go.jp/
公益財団法人浜松国際交流協会内 浜松市JICAデスク
〒430-0926  浜松市中区砂山町324-8 第一伊藤ビル9階
Tel: 053-458-2118 / Fax: 053-458-2197
Mail: jicadpd-desk-hamamatsujica.go.jpHP: http://www.jica.go.jp



【編集後記】

 私たち日本人は、当たり前のように学校に行き、自分で選択して就職が出来る。
政治や社会参加も出来るし、医療も低価格で受けることが出来る。

一方世界では、『3秒に1人』の子どもが貧困のために命を落としている現実がある。
私たちが今当たり前に生活出来ている事に感謝しつつ、国際協力分野において出来る支援は
まだまだ無数にあります。知らない、関係ないではすまされない先進国と途上国の因果関係もあります。自分のまわりのことから、意識を広げて考えて行動していくことが今日本人にも求められていると思います。


 上田さんは、とても情熱的でチャーミングな方でした!
ご両親の反対を押し切って、自分の道を切り開いたあたりはぜひ、多くの若者が刺激になるのではないでしょうか。将来的に国際協力の分野で働きたいという若者に出会うとき、学生の間に途上国の現場を見てきた方がいいとアドバイスすると、「両親が反対で・・・」という学生がいます。

何事もそうですが、自分が進みたい道ならば、周りの反対を賛成に変える情熱と努力が必要です。40歳からは家族同伴で海外協力隊に参加できるそうです。私にもまだまだ国際協力の舞台で
活躍出来るチャンスがありますね!   
                           (取材・編集 塩崎明子)



 世界の豊かさの基準もそれぞれあり、お金や高価な物があることだけが豊かだとはいえず、
家族の笑顔だったり、近所の人との交流やコミュニケーションだったり、豊かだと思う基準は人それぞれだと思います。いくら同じ国だとはいえ、一歩違う道を行けば、住んでいる環境や人も価値観も違います。日本の為だけでなく、世界の為に何かをするということは、大変だけどすごくかっこいいなと思いました。日本の技術を、多くの世界の人に知ってもらいたいです。
 
また、県外から浜松に来た人が、浜松で何かをしたいとすごく情熱的な意見を持っていることに
驚きました。楽しい活動を通じて、もっと街がにぎやかになればいいなと思います。
                                  (22歳 井村江里)



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